日本天文学会2000年春季年会 [W27b]
山室智康、武山芸英((株)ジェネシア)、一本潔、末松芳法、花岡庸一郎、 常田佐久(国立天文台)、秋岡眞樹(通総研)、斉藤秀朗(三菱電機)、SOT開発グループ
Solar-B 可視光望遠鏡(SOT)のコリメータ部(CLU)は、グレゴリアン反射望遠鏡で集光された光を平行光線に変換して、焦点面観測装置(FPP)へ導くための光学系である。
CLU を用いた設計により、日米両国で分担製作される望遠鏡と FPP の間の相互の位置精度を大幅に緩めることができた。
SOT が回折限界の空間分解能を実現するためには、CLU は観測波長帯390~670nm全域にわたって、ザイデル収差および色収差が十分に補正された平行光線を FPP に送る必要がある。
さらに、観測対象である太陽からの輻射が CLU に入射すると、観測中に CLU の温度が変化したり、レンズ内部に温度分布が生じると予想されるが、この温度変化に起因して生じる
収差や焦点位置の変化(温度収差)も小さく押さえる必要がある。しかし、色収差補正に有用とされる光学透過材料は、一般的に大きな温度収差を生じる。
これらを同時に解決するために、以下の手順に沿って最善設計解の探査を試みた。
(1).近軸理論を応用して、多波長色消し、かつ温度収差を生じない条件式を導出した。(2).入手可能な光学材料(計約 600 種)の全組合せから、近軸論の条件式を満たし、
さらに高次収差も除去しやすいと推測される組合せを選別した。 (3).選別した組合せから、高次の色および温度収差が逆符号であるものを2種組合せ、
より収差の小さい設計を得た。
以上の手法に基づき設計を進めた結果、従来一般的であった設計に比べて、温度収差が 1/100 程度に改良された、有力な CLU 候補設計が得られた。
しかし、この設計を元に、各々のレンズの吸熱量とそれに伴う内部の温度分布を定量的に見積もり、レンズ形状および屈折率の変化に換算して収差の変化を調べた結果、
観測において無視できない収差が発生することが確認できた。そこで、レンズへの熱入力を低減させるために、CLU 前面に観測波長以外の不要な光を反射するコーティングを施し、
反射光を効率よく宇宙に戻す面形状を採用した改良設計解を得た。ただしコーティングの詳細については検討中である。
本発表では、設計手法の詳細と、実際に得られた CLU の特性について報告する。