日本地球惑星科学連合2010年大会
○小淵保幸(ジェネシア)、坂野井健(東北大学)、鍵谷将人(東北大学)、 武山芸英(ジェネシア)、江野口章人(ジェネシア)、岡野章一(東北大学)
木星周辺には、その衛星であるイオ起源のプラズマが存在している。このプラズマは木星を 中心にトーラス状に分布しており(イオプラズマトーラス;以下IPT)、木星磁場に捕捉され木星磁場と 共回転をしている。
IPT 中のNaは共鳴散乱、S+イオンは電子衝突励起で発光しているが、 木星表面やイオ表面からの太陽反射光に比べ非常に微弱であるため、それら太陽散乱光に起因する迷光が 観測対象のS/Nを劣化させている。
そのため、現在行われている観測では木星反射光による散乱光を 抑えるために、望遠鏡で木星を追尾し像面において木星を常に同じ位置に固定し、望遠鏡の焦点面に 木星像を隠すフィルターを配置することで、フィルター以後のコリメート光学系や、結像光学系での 散乱を抑えるという方法を取っている。
しかし、観測中にイオは木星に対して動いてしまうため、 イオを隠すことはできない。このため、イオ周辺ではイオ散乱光によるS/N の劣化は避けられない。 この劣化を低減させるためには、隠すべき対象に合わせて位置、形状が可変なマスクの装着が望まれる。
そこで我々は、DMD(Digital micromirror device) をマスクとして利用するカメラ光学系の開発を行った。 DMD は、アレイ状に配置された極小(13 μ m × 13 μ m) の鏡を、アレイ面に対して± 12 度傾けることによって、入射光を2 次元的に取捨選択することのできるデバイスである。
1024 × 768 個アレイ状に並べられた一枚一枚の鏡を、PC によって独立に制御することが可能である。これを位置 及び形状が可変なマスクとして利用した。これまでに行われた基礎実験により、マスクに入射した光を、 約10-3 ~10-4 程度に減光出来ることが確認され、木星周辺微弱光の観測に十分な水準を満たして いることが分かった。また、木星のみならず、刻々と形を変える水星など内惑星周辺の観測への応用や、 その臨機応変性を活かし、飛翔体に搭載することも期待される。
これまでは製作したレンズユニットの性能評価までを報告してきた。本講演ではDMDをユニットに組み込み、 マスク機能も含めた性能評価を報告するとともに、東北大学惑星圏飯舘観測所の望遠鏡に取り付け、 試験観測した結果についても報告する。加えて、今後の観測展望について議論を行う。